AI時代に求められる人材とは 2026.09.30

AI時代、企業が高い報酬を払ってでも求める人材とは――生成AIは、使い手の力を乗算する

業務への生成AIの活用が市民権を得るようになった昨今、企業から受けるヘッドハンティングの相談にも、明確な変化が表れはじめました。特にITサービスを提供する企業では、技術の理解や開発の推進に加え、AI活用の方針や投資を判断し、開発体制の見直しまで担える人材への期待が強まっています。

弊社が2026年に入り、9月時点までに最も多く相談を受けたポジションは、経営・開発の両面からAI活用の方針を描き、投資判断まで担えるCTOでした。
次いで、AI駆動開発を前提に、開発プロセスと組織を再設計できるVPoE。事業戦略と連動したプロダクト・プラットフォーム戦略を描き、収益性を踏まえた投資判断を担うCPO。
そして、課題発掘から設計・開発まで、生成AIを活用して少人数で高速に実装できるテックリードが続きます。

共通するのは、それぞれの担当領域で何に取り組み、どこにリソースを投じ、どう事業成果へつなげるかまで責任を持つポジションであるという点です。

こうした相談の中には、昨年度まで同じポジションに提示していた報酬の1.5倍から2倍のレンジを設定する企業も出てきました。役職名は同じでも、任せたい仕事と責任の範囲が変わってきています。

この変化を通じて、技術を理解していることに加え、それを事業成果にどうつなげるかを判断する力への期待が高まっていると感じています。

生成AIは、使い手の力を乗算する

従来の業務システムは、あらかじめ設計された処理やルールを組織全体に提供することで、業務の標準化や効率化を進めてきました。その設計と運用次第では企業の競争力を高める力を持ちますが、基本的には個人ごとの業務品質のばらつきを抑え、使い手の力を一定水準まで底上げする性質を持っています。

一方、生成AIは、調査、分析、試作、実装など様々なフェーズで活用でき、仕事に組み込む自由度が高いため、使い手の力量によってアウトプットに何倍もの差が出るようになりました。

例えば、生成AIを使って新しいサービスの企画を検討する場面を考えてみましょう。市場や競合を調べ、いくつかの案を比較し、試作品をつくることはできても、そもそも誰のどの課題を解決するのかが曖昧であれば、検討を重ねても事業成果にはつながりません。

もし事業への深い理解があれば検証すべき仮説を絞ることができ、豊富な専門知識を有していればAIの回答に含まれる誤りや、実務で使うには足りない点にも気付けるでしょう。そのうえで、実行に移す力があれば、試作品を顧客に使ってもらい、顧客の反応を確かめるところまで進められます。

このように調査や試作にかかる時間をAIで短縮できれば、こうした知識や経験を、より多くの判断や実行に生かせます。私は、この働きを「使い手の力を乗算するもの」と捉えています。

ただし、経験を積んだ人だけが恩恵を受けるという意味ではありません。カスタマーサポートを対象とした研究では、経験の浅い担当者やスキルの低い担当者に、より大きな改善が見られました。AIの支援が担当者の学習を促すことを示す結果も報告されています。

そのため、AIを活用するうえでは、すでに備わっている能力を発揮する使い方と、これから必要な能力を身につけるための使い方、その両方が必要であると考えています。

“経営判断力”が及ぼす影響の範囲と速度が変わる

こうして取り組める選択肢が増えても、予算や人員が無制限になるわけではありません。何から着手し、何を見送るかは、引き続き判断する必要があります。

本記事でいう「経営判断力」は、どの課題に取り組むかを決め、必要な資源を投じて実行に移し、その結果を踏まえて継続・修正・撤退を判断する力です。

経営判断力は、以前から経営レイヤーのポジションで最も重視されてきたファクターでした。ただし、AIによって判断から実行までの時間が飛躍的に短くなった今、一つの判断が及ぼす影響も大きくなっています。
適切な判断であれば成果への到達を早められますが、判断を誤れば、不要な開発や投資も速く進みます。気付いたときには、不要な機能や運用の負担が増えているかもしれません。だからこそ、何に着手するかだけでなく、途中で誤りを見抜き、修正する力まで問われます。

もちろん、その判断には技術や業務への理解が欠かせません。AIでどこまで実現できるのか、出力は信用できるのか、運用にどの程度の手間がかかるのかを見誤れば、投資の前提も崩れてしまいます。

AIを使うほど、利益が増えるとは限らない

仕事を速く、大量に進められることと、投資に見合う成果が出ることは別の話です。
実際、弊社に寄せられる情報の中にも、AI関連のコストが増大する一方、利用料を上回る経済価値を生み出せていないという企業の声があります。

AI導入の採算を考える際には、利用料のほかにもデータの整備や既存システムとの連携、出力の確認、運用の見直しにかかるコストを検討しなくてはなりません。また、作業時間を削減できても、その余力を利益改善や顧客対応、成長に必要な仕事へ振り向けられなければ、期待した投資対効果は得られません。

AI活用も聖域ではなく、他の投資と同じく経済合理性が求められるというごく単純な話です。その責任を負う人は、業務ごとにどれだけの費用をかけ、何を改善するかを決めなければなりません。また、効果を検証する時期をあらかじめ定め、結果に応じて投資を続けるか、見直すかを判断する必要があります。

冒頭で触れた報酬レンジの上昇には、こうした判断まで任せたいという企業の期待が表れているのではないでしょうか。私は、AIを理解し活用方法を知っていることだけでなく、事業状況を踏まえて投資を判断し、十分な価値を事業に残せるかが、採用で重視されるようになっているのだと捉えています。

個人の力を、組織の持続的な成果へ

ただし、AIによって広がった実行力を組織の成果につなげるには、経営判断力に加え、周囲を動かす力も必須となります。

組織のAI活用となると複数の部門が関わるケースも想定されます。その場合、データの利用範囲や役割分担、意思決定の権限なども細かく調整する必要があり、正論で進めていくだけではハレーションは避けられません。また、仕事の進め方が変わるのであれば、評価の仕組みやガバナンスといった制度面も同時に見直すことになります。
こうしたケースにおいては、それぞれの専門家を巻き込み、現場の制約も踏まえながら、実行できる状態を整えていく必要があるでしょう。

また、こうした成果を特定の人に依存させずに続けるには、次の担い手にどの仕事を任せるかも考えなければなりません。

私は、少人数で仕事を進められるようになったからといって、判断のできる人とAIだけで業務を完結させて良いとは考えていません。
経営判断力は、役職に就いた時点で突然身につくものではありません。小さな業務でも、自分で判断し、その結果を振り返る経験が土台になります。若手や中堅がこうした経験を積む機会まで減らしてしまえば、数年後にその役割を任せられる人が育たなくなるのではないかと懸念しています。

弊社にも、後継者探しや次世代の経営体制に関する相談は多く寄せられています。こうした相談を受ける立場からも、人材が育つ機会をどう確保するかは軽視できない課題だと感じています。

では、AIで作業を効率化しながら、判断力を育てる機会をどう確保すれば良いのでしょうか。

例えば、小さな改善テーマを任せ、AIを使って調査や試作を進めてもらう方法が考えられます。その際、提出物を確認して終えるのではなく、なぜその方法を選んだのかを聞き、実行後の結果まで一緒に確かめれば、作業を効率化しながら判断を振り返る機会もつくれます。上司も、自分なら何を重視するかを伝え、経験に応じて任せる範囲を広げていくことができるでしょう。

これは若手のためだけの話ではありません。責任ある判断を任せられる人が増えなければ、組織はいつまでも特定の人に頼ることになります。これは企業の持続的な成長という観点において、長期的に大きなリスクとなります。高い報酬で迎える人材には、本人の成果とともに、その人のもとで周囲がどこまで仕事を担えるようになるかも期待したいところです。

AI時代、誰に事業を任せるか

私が高い報酬を払ってでも迎えるべきだと考えるのは、経営判断力を軸にAIを事業成果へつなげ、成果を生み続ける組織をつくれる人材です。採用では、その人自身が何をできるかに加え、事業を任せた先にどのような組織が残るかまで見極める必要があると考えています。

✎ Profile

代表取締役社長/President
向井 綾汰

2015年、SFJに入社し、製造、IT、インフラ、通信等、幅広い業界のリサーチ、コンサルティングに携わる。2019年よりITユニットのヘッドとして、役員・CxO・PM/PdM等、幅広いレイヤーのIT/DX人材獲得案件を主導。2021年にSFJ NEXT設立を主導しゼネラルマネージャーとして事業を牽引。2024年より代表取締役社長就任。

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