IT戦略の全体像 2026.07.16

「IT戦略の全体像」第4回 ITマネジメントを考えよう(2)

皆さん、こんにちは。

今年の梅雨は本当によく雨が降ります。私の住む仙台でも例年よりかなり雨量が多いように感じますが、全国を見渡すと被害の出ている地域も少なくありません。昨年のような空梅雨だと夏の水不足が問題になるし、自然相手の話はちょうどいい具合に、って訳にいかないところが難しいですね。

さて前回はIT活用に関わる経営資源(ヒト・モノ・カネ)のうち、ヒトのお話として、IT人材は経営活動に必須の経営資源であり、かつ市場での需要も高い水準で推移しているので採用だけに頼らず自社で育つ状態をつくりましょう、というお話をしました。今回は経営資源に関して残るモノとカネの話をします。

【モノ】

スマホやPCなどのIT機材、ネットワーク機器、アプリケーションといった種々のIT資産の管理にはいくつかの切り口がありますが、資産のライフサイクルに沿って考えるのが分かりやすいので、以下では導入~活用・運用~廃棄の各ステージの考え方を整理したいと思います。

導入

導入しなきゃいつまでたってもITは使えない、一方で欲しいものを全部導入していたらカネがいくらあっても足りない。経営資源管理の目指すところが全社最適であることに立ち返れば自ずと、全社で共通利用できるものを計画的に導入しアーキテクチャをシンプルに保つことの重要性が理解できると思います。シンプルなアーキテクチャは結果として費用対効果を高め、セキュリティリスクを軽減します。

社内には様々な人がいます。個人の趣味でIT製品を選びたがる人、しかもそれが社内で発言権が強い人ならさらに面倒です。社内標準の考え方は総論賛成でも各論になると抵抗勢力が様々な形で存在します。全社最適という錦の御旗を掲げてIT組織が導入の意思決定に主体的な役割を果たすことが重要です。

運用(活用)

IT部門の中で新規導入が脚光を浴びる(プレッシャーもかかる)ことは多いですが、運用は“動いて当たり前”みたいな空気感はありませんか? でもこれは大きな間違いです。運用や保守は、構築したシステムが価値を生み出し続けるための重要業務です。運用業務そのものに加えて運用業務の標準化・効率化に向けた取り組みなども含めて、担当者を正当に評価してほしいと思います。

ちなみに運用業務の詳細についてはベストプラクティスの体系がITILとしてまとまっているので、このブログでは掘り下げません。

※ITIL:Information Technology Infrastructure Library

また運用時に定期的に発生する棚卸など資産保全の観点に関しては、IT資産固有の特殊事情はないので、一般的な資産管理と同様に考えてよいと思います。

廃棄

機材にしてもシステムにしても用が済んだら手放すのが基本です。想定した価値を生んでいるかを判断材料に定期的に判断する場を自社の業務プロセスに組み込んでおくのが正解です。手持ちの資産が少ないほど管理業務もセキュリティリスクも軽減できるので、「減らす」に意欲的に取り組んでほしいですね。

モノの管理に関する話の最後に台帳管理に触れておきます。導入から廃棄までのプロセスを通じて自社が保有するIT資産を台帳に反映することが重要です。台帳が常に最新の状態を維持できるプロセスが実践されている組織は成熟度が高いと考えられます。

【カネ】

「測れないものは管理できない」

私の座右の銘ですが、出どころはデミング博士やピーター・ドラッカーあたりだと聞きます。IT費用も同様でまずは自社が管理したいIT費用のスコープを決め、その費用がもれなく集計されて見えるようにすることが必要です。その際に費用分析のニーズに応じたメッシュで管理できるよう適切な科目設定をしておくことも重要です。

これが実現できていれば、後は自社の予算サイクルに合わせてIT費用の経営審議を組み込むことで自ずと経営戦略との整合を確認することができるようになります。分析の在り方や戦略立案の考え方などは各社各様なのでここでは言及しませんが、昨今の価格高騰を受けてIT費用に関しては厳しい目が向けられる現実もあるので、ここでは経営への説明の観点でお勧めする新規費用と継続費用の考え方だけご紹介することにします。

新規費用

新たな機材やシステム、外部サービスの導入の際に、一定の金額以上のものに対して審議のプロセスを組み込むことで以下のような観点での可否判断を行うのがお勧め。

  • 自社戦略に適合しているか
  • 投資額に対して十分な便益が得られるか
  • 自社標準として運用中のIT資産と重複がないか
  • 自社の経営状況と照らして妥当な規模か
  • 金額自体は市場において妥当な水準か

継続

稼働中のIT資産の継続に関する費用は言わば生命維持装置なので、その資産を放棄する判断をしない限りは絶対に必要です。ただし継続のための費用は放置すると上がることはあっても自然に下がることはないので、常に減らす方向で考えるべきだし、時には経営に対して削減の取り組みを説明することも意味があります。削減に向けて検討すべき項目の例を挙げておきます。

  • システムを止める |費用対効果が低いものは止めることを考える
  • ライセンスを減らす |利用率から本当に必要な数に絞る
  • 機材を減らす |PC、スマホなどの台数は継続的にチェックし抑制
  • 運用費用を減らす |ツールによる自動化、委託化による社員工数の捻出
  • レガシーシステム刷新 |大手術になるが効果大、IT部門が仕掛ける
  • 委託先を再考する |定期的なパフォーマンス評価を推奨

カネの管理の最後に総額の話をします。自社のIT費用総額はいくらが妥当かといった相談を受けることは少なくありませんが、普遍的に正しい物差しはないと私は考えています。GartnerをはじめIT費用に関する資料を出している機関はいくつかあり、例えば売上高比IT費用とか従業員一人あたりのIT費用といった指標を得ることはできますし、それを参考にすることは有用と思います。

ただし各社はその時々で事情が異なるため、総額の水準だけを議論するのはミスリーディングです。例えばERPの刷新プロジェクトが動いているような状況なら一時的にIT費用は膨らむだろうし、大きなIT投資が終了した後には減価償却が始まることで費用を底上げします。また業種や企業規模によっても必要なITの姿が異なります。是非、自社の現状認識に基づいて費用の妥当性を検討ください。

2回にわたってITに関わる経営資源の管理についてお話してきましたが、次回は最終回としてITに関わるガバナンスのことをお話します。

Profile
Executive Senior Director
村田 すなお

北海道大学卒業後、デジタルテクノロジーを軸にして国内大手精密機器メーカー2社に勤務。新規拠点立ち上げのためのカナダ赴任や事業加速のためのM&A推進などの経験を経て、2014年以降は執行役員として経営全般に関わる。キャリア後半ではCIOとしてグローバルなIT推進全般を遂行、業務システム、ITインフラ、サイバーセキュリティ、AI、DXなどの戦略立案、企画、設計、運用などを指揮。
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