IT/DX人材ニーズ2024~ITサービス提供企業編~栄えある第1位は、CTOポジションでした。これは予想できた方も多かったのではないでしょうか。
このポジションは、ITサービス提供企業の中でも自社プロダクト開発型(自社でWebサービス・SaaS・プラットフォーム・パッケージなどの開発を行う)企業からのニーズが圧倒的でした。
一般的に技術責任者を指す言葉として広く認知されていますが、その具体的な業務内容や役割は企業によって様々で明確な定義がありません。CTO個人に着目してみても視座やケイパビリティ、強み・専門性など千差万別です。
ではまずは、企業側がCTOに求める役割・視点の変遷について歴史から振り返ってみましょう。
国内ITサービス提供企業におけるCTOの役割と必要とされる視点
CTOの設置は1990年代後半から始まり、2000年代初頭にかけて本格化してきました。これはインターネットの世界的普及やITバブルに象徴されるソフトウェア企業(自社プロダクト開発型企業)の急成長を背景に、テクノロジーがビジネスの中核を担うようになったことが要因です。
また、日本企業におけるCTOの役割遍歴はGAFAMに代表される米国テック企業の影響を多分に受けており、理想とする姿は時代によって変容していきました。
各年代のリーディングカンパニーで理想とされたCTO像
2005年~2012年(Web創世期):スーパーエンジニア
CEOの描くビジョンを実現するプロダクトを作るために開発現場のエースプレイヤーとして一騎当千の活躍を期待される。主に創業メンバーが担い、経営という意味合いは薄く、あくまで技術に特化した「技術の象徴」的存在。
2013年~2020年(クラウド・SaaS全盛期):開発組織責任者
一人では作れない規模に拡大したことから、技術力よりもエンジニアを束ねられる組織マネジメント力が重視されるように。スケーラビリティを重視した開発プロセスの整備や必要なリソース(エンジニア・予算など)の確保など、「開発組織のまとめ役」が求められた。
2021年~現在(AI・DX・データ駆動期):経営者(最高技術責任者)
技術を「経営資源」と捉え、企業成長・拡大のために必要なことを技術リソースを用いて実現することのできる技術領域の最高意思決定者。ボードメンバーの一員としての自覚を持ち、中長期的な企業利益の最大化という観点から自社の技術ロードマップを描きつつ、扱う技術の取捨選択が行える「経営の一翼」。
現代においては、CTOに求められる役割が「開発組織のまとめ役」から「経営の一翼」へ変化していることが分かります。つまり、現代のCTOに求められるのは、特定のスキルや経験以前に「技術を手段として、いかに事業のROIを最大化させるか」という経営視点(OS)です。
経営視点(OS)を持つCTO需要の背景
ではなぜ、現代において経営視点を持つCTOが求められているのでしょうか。その理由はテクノロジーがビジネスの中核を担うようになったことであり、その影響で以下のような社会的な動向に対し技術領域全般を管掌する経営者として対応することが必要不可欠になったためと言えます。
1.エンジニア採用市場熾烈化
国内採用市場(≒転職市場)においてエンジニアのニーズは右肩上がりです。特に、テックリードやEM、アーキテクトなどの中核層の採用は熾烈を極めています。
こうした状況下において競合他社に優位な採用力を養うためには、CTOが経営の視点から「選ばれるための文化・報酬・技術スタック」を戦略的に設計する必要があります。
また、副次的ですがこうした高い視座を持つCTOが自社に存在していること自体が、「誰と働くか」を重視する採用難易度の高い中核層へのアトラクトに繋がることもあります。CTO自体が採用における広告塔の役割を担える場合、採用コストの削減・組織への定着に繋がります。
2.急速な技術革新スピード
近年はAIエージェントや新たなデバイスの台頭により、技術革新のスピードが極端に早まっています。
こうした状況下にある現代では、自社で扱う技術の取捨選択の判断と意思決定スピードが非常に重要となってきています。
CTOは、続々と現れる新技術の優位性を正しく認識した上で、自社の顧客やプロダクトの性質、自社の拡大スピード、コスト効率を考慮して導入するかどうかのスピーディーな意思決定を強いられます。
これはまさに不確定な状況下での判断と意思決定という経営レイヤーの仕事であるため、視座の高いCTOの存在が必要不可欠となります。
以上のように、エンジニアという希少リソースの確保と技術革新スピードへの対応はITサービス提供企業にとっての生命線です。企業経営に直結する核心だからこそ、視座の高いCTOの採用ニーズが高まっていると言えます。
一方、この経営視点というOSを獲得できているCTOはまだまだ多くありません。肌感ですが我々が普段面会するCTOという役職に就く方の5人に1人(20%)程度でしょうか。後述する分業体制が広まってきた結果、執行部分でのCTOの負荷が下がり、少しずつ経営視点を獲得できたCTOも増えてきていますが、需要に対し供給が足りていないという現状は認識しましょう。
CTOの類型(スキルセット別)
次に、CTOの分類を見ていきましょう。
経営視点(OS)を有するという必須事項を前提として、スキルセットでCTOのタイプを分類すると下記のように3タイプに分けられます。これは、OSとアプリケーションの関係性と同じであると言えます。
| タイプ | 強み・専門性 | 本来あるべき補完的な役割 |
|---|---|---|
| A. 開発組織マネジメント型 | 採用、育成、文化醸成、評価制度構築など | VPoE (Vice President of Engineering) EM(Engineering Manager) |
| B. 技術特化(テック)型 | アーキテクチャ設計、先端技術選定、R&Dなど | Chief Architect TechLead / Architect |
| C. プロダクト開発型 | UX、市場適合性(PMF)、プロダクトロードマップ策定など | CPO (Chief Product Officer) PdM(Product Manager) |
同じCTOという役職でも強みや専門性が大きく異なることが分かります。細分化した背景には、企業規模(従業員数や保有プロダクト数、売上)や扱う技術の急拡大に伴い、CTOが全領域を管掌することが物理的に困難になったという経緯があります。
現代では適切なスピードで組織・技術・プロダクトの課題に対応するため、一定以上の規模の企業においては、分業体制を採用するケースが一般的です。
具体的には、組織に責任を持つVPoE(Vice President of Engineering)やプロダクトに責任を持つCPO(Chief Product Officer)をCTOと別に設置し、各々の責任範囲を明確化する形が主流となっています。
タイプ別CTO採用時の注意点
よくある相談として、「経営視点を持ちながら組織・技術・プロダクト全方位に秀でたCTOを採用したい」というものがあります。しかしこれは、ユニコーンを探すに等しい行動であり、非常に採用難易度が高いとご理解ください。
現代日本においては、経営視点(OS)を持つCTO候補者というだけでもまだまだ数が少なく、ましてや全領域のスキルを持つスペシャルな人材は一握りしか存在しません。
仮に見つけたとしても既にリーディングカンパニーの主要ポジションを担っているか、自身での起業を選択しているケースがほとんどです。
本当に採用したいのであれば言い値の報酬と、当該候補者の望む要素(裁量・権限・予算など)の全面的な提供が必須となります。
これは一般的な企業にはハードルが高く、現実的には非常に難易度が高いことを覚えておきましょう。
つまり、現実的にCTO採用を成功させるためには、自社の個別課題を冷静に分析し最もボトルネックになっている課題を解消できるタイプのCTO候補者を選定することが鍵となります。適したタイプを選定しなかった場合、せっかく経歴の立派なCTO候補者を採用したにも関わらず、全くワークしないということも少なくありません。
適したタイプの選定例:
「採用に苦戦し、エンジニアリソース確保が困難」⇒ A.開発組織マネジメント型
「技術的負債により、市場の変化に対するアジリティを喪失している」⇒ B.技術特化型
「市場要求に対し、適した打ち手(機能実装)を提供できていない」⇒ C.プロダクト開発型
報酬レンジ
CTOの採用では一般的に、企業フェーズが変数となり報酬幅が定まる傾向にあります。これは採用企業側の企業体力が最も大きなファクターとなるためです。
そこで今回は、企業フェーズ毎の報酬レンジをまとめました。
分かりやすいように年収換算(賞与含む)してありますのでご覧ください。
〇企業フェーズ
シード・シリーズA:800万円~1,200万円(中央値:1,000万円)+SO
シリーズB・シリーズC:1,500万円~2,500万円(中央値:1,750万円)+SO
レイター・IPO前後:1,800万円~3,500万円(中央値:2,100万円)+SO or RSU
上場後:2,200万円~6,000万円(中央値:2,800万円)+RSU
※見やすいように中央値は50万円単位まで数値を丸めています。
数年前と比べ、報酬水準は上昇傾向にあると言えます。最も大きな変化としては、シリーズB・シリーズCフェーズにおいても一定以上のベース報酬を支払えるようになったことでしょうか。VCやファンドからの資金流入、経営トップがCTOの必要性を強く認識し始めたことが主な要因かと思われ、今後も高まっていくことが予測されます。
いかがでしたでしょうか。
今回、企業によって定義の異なる「CTO」というポジションを紐解いてみました。CTOは経営視点というOSとその上で動くアプリケーション(スキル)の組み合わせにより、活躍できる状況が異なることが分かりますね。
今後、CTOへのキャリアステップを歩みたい方は、経営視点というOSが強く求められる環境であることを意識してください。技術を重要な経営資源と捉え、企業成長に合わせてリソースを確保する、時代の変化に対しスピード感を持った意思決定を行える人材こそが、現代に求められるCTOと言えます。
企業側としても、高望みしすぎず現状課題の解消に適したCTO像をしっかり定義し、適したタイプのCTO候補者を選定しなくては採用成功には至らないことを意識しましょう。
次回は第2位の発表です。どんなポジションがランクインするでしょうか?お楽しみに!

向井 綾汰
2015年、SFJに入社し、製造、IT、インフラ、通信等、幅広い業界のリサーチ、コンサルティングに携わる。2019年よりITユニットのヘッドとして、役員・CxO・PM/PdM等、幅広いレイヤーのIT/DX人材獲得案件を主導。2021年にSFJ NEXT設立を主導しゼネラルマネージャーとして事業を牽引。2024年より代表取締役社長就任。
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